理佳は普通の人間だ。特別かわいくもなく、なにか
特技があるわけでもない。
だが一つ、理佳は超能力を持っている。
他人にお願いすると必ず聞いてもらえる能力だ。
悪用しようと思ったらいくらでもできる力である。
しかし理佳は悪用はしない。人の心を操ることがどれほ
ど難しいか予想できるからだった。
理佳は大学に、好きな男性がいた。平凡な理佳に合わぬ
ほど輝く人だった。理佳はひと目見て恋に落ちた。
超能力を使えばかんたんに付き合うこともできた。
でも理佳はそうしなかった。本当に愛されているのか分
からなくなるのが嫌だった。その代わり、かれに猛アタ
ックし続けた。その成果が実り、彼から告白の言葉を
引き出せた。
理佳は付き合い始めると同時に力のことを打ち明けた。
信じてもらえないと思っていた彼は君が言うならと
あっさり信じた。
その上で理佳はある提案をした。
これから付き合っていく上で、お願いをしたくなるとき
もある。けれども、私は強制はしたくない。だから二人
だけの合言葉を決めようと。
理佳の提案は受け入れられた。
例えば
「抱きしめて」
は
「あなたの腕の中って安心する」
こうすると命令形ではなくお願いできる。
意外と楽しい作業で彼と理佳はたくさん作っていった。
家事のことだったり、様々なことを合言葉にしていっ
た。
やがて理佳の頭からはもうお願いしたいであろうことは
無くなった。合言葉を書き出したリストを片付けようと
立ち上がったとき、彼が理佳を引き止めた。
「まだ全部決めてないよ」
「え?」
「結婚しようの合言葉が無いよ。ほら何にする?」
理佳の両目から雫がこぼれ落ちた。
彼の言葉は誰に強制されたのでもなく自然の言葉
だった。ただ理佳が好きだから出た言葉だった。
理佳は嬉しくて泣きながら答えた。
「世界で一番あなたが好き、かな」
語尾が震えていたけれど、
それは最上の合言葉で、
愛言葉だった。
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「あいことば」
愛言葉
10/27/2023, 5:41:06 AM