久しぶりに実家に帰った。
日が暮れてきたため部屋は薄暗い。壁にあるスイッチで灯りをつける。近所はほとんど和風の造りだが、祖父が生粋の英国人のためこの実家も西洋造りにしてあるのだ。
シャンデリアの光が届かない部屋の片隅で、ぼうと暗い影が動いた。
「やぁ、姉さん。久しぶりに来たよ」
影は返事をしない。
「そんな隅っこにいないでこっちに来たら?」
声掛けに俯いていた顔が上がった。
人形のように美しい顔。
太陽の光に当たれば白く輝く美しいプラチナブロンドが揺れた。血の気のない頬……無表情のままこちらを見る瞳は宝石のような綺麗な金眼。
「今日は罵らないのかな? 鞭で叩かないのかい? 私が……いや、ボクが来てあげたっていうのに」
姉は途端にたじろいだ。にっこりと笑ってみせれば、怯えたように闇に溶けて消えて行った。
「つまらないな」
ソファに座って天井を見上げる。
私を虐待していた美しい姉は、僅か十歳でその生涯を終えた。義理の弟──私に惨殺されて、食べられた……そんな話を誰が信じるだろうか?
不義の子である私が憎かったのだろうが、私は彼女が心底美しいと思っていた。好意すら寄せていた。それが気持ち悪かったのなら、仕方ない。
部屋の片隅に現れる彼女は、私の作り出した幻想なのだろうか?
もし化けて出ていたのなら、また掴めるのなら……
「また、食べてみたいな」
姉とひとつになった私の金眼が、鏡に映って楽しそうに笑った。
【部屋の片隅で】
12/7/2023, 11:47:23 AM