【時を結ぶリボン】
わたしは、母のことをよくしらなくて。
家族の話題になると、少女は決まってそう答えた。少女は父子家庭で育った。母親は少女が幼い頃に亡くなった。父親はよく母親の話をしたが、少女には実感がなかった。少女にとって、お父さんだけが大切な家族だった。
少女も子供心に母親のことを大切にしたい、とは頭では思う。心がついてこないのだ。けれど、少女は諦めなかった。
毎日玄関の母の写真を眺めていた。テレビに出ているアイドルみたいで、可愛くて格好いい。少女が抱いた印象はそれだけで、テレビに出ているようだ、という印象が更に母親との溝を作っていた。
そこでふと、少女は母親が髪につけているリボンに気がついた。自分がつけている真っ赤な薔薇の色と同じだった。
少女はすぐさまお父さんを呼び、手を引きながら戻ってくる。そうして母の写真を指さした。
「おとーさん!これ!これ!」
顔を高調させる少女に、しかし父親の反応は対照的に、ただ遠くを見るように目を細めた。
「ああ、これかい。おかあさんが大好きな髪飾りだよ。とても可愛らしい髪飾りだから、絶対似合うって言ってね。だから、それはおかあさんの最後のプレゼントだね」
そう言って、父親は少女の頭を撫でた。少女は頭の髪飾りに触れてみた。髪が揺れてくすぐったい。
__これが、最後のプレゼント。
そう思うと、なぜだか涙が出てくる。止めようと思っても止められない。流れるたびにお父さんが頭を撫でる。あったかい手に安心して、少女はまた泣いた。
泣き疲れた少女は寝てしまった。
「おかあさん……」
少女は時を繋ぐリボンの夢を見ている。
【あとがき】
最後の一文が蛇足だなぁ。と思います。ただお題は必ず入れる、というルールを設けていて、ここしか入れられず……
また詳しく語ると味が落ちるので話しませんが、呼び方にも注目していただけたらな。と思います。
親って、普段は叱ってきたりしかしないものです。ふと、愛されている。と感じた時に思わず涙がこぼれたりするものですよね。
12/21/2025, 3:11:24 AM