麦わら帽子が飛んでいた。
ひらりひらりと風に舞い、地面に落ちてしまいそうになった瞬間。
小さな手がそれを拾う。
少年は数秒その麦わら帽子を見つめ、持ち主は誰かと周囲を見回した。
小学一年生程度の少年が、美しい青空の下、向日葵畑の近くの無人駅で麦わら帽子を持っている。
傍から見ればなんとも絵になる光景だった。
キョロキョロと周りを探す少年の目に、一人の女が写る。
白の夏らしいワンピースに、麻でできたショルダーバッグを肩にかけている髪の長い女。
夏の似合う美しい女であったが、少年はそんなことよりも帽子の持ち主を見つけられたことに歓喜していた。
周囲に人間は見当たらない。つまり麦わら帽子この人のものだと判断する。現に女は首を回して何かを探す素振りをしていた。
「はい、お姉さん!落としたよ!」
駆け寄って麦わら帽子を届ける少年の笑顔は太陽の如く明るかった。
女は笑顔で帽子を受け取る。
「ありがとう。良い子ね。」
その日、その夏の暑い日。
一人の少年が、女と共に姿を消した。
8/11/2024, 12:27:44 PM