→短編・バイバイ
「バイバーイ」
セーラー服の少女が私に手を振っている。独身社会人の私に、あの年頃の知り合いはいない。誰だろう? 彼女の人違いではなかろうか? でも、この声を何処かで聞いた記憶がある。
「バイバーイ」
土手の上の彼女は弾んだ高い声で繰り返す。
「バイバーイ」
河原を歩く私に親しげに手を降る彼女は、黄昏時の夕焼けを背後にしており、その顔は逆光で見えない。
「バイバーイ」
明るい堂々とした声に釣られて、私はおずおずと胸前で手を振った。「バイバイ……」
私の挨拶に納得したのか、もしくは人違いに気がついたのか、彼女はさっと身を翻し土手の向こうに消えた。
冬の川辺に冷たく鋭い風が、黒く薄い生地の私のスカートを揺らした。黒のストッキングの膝下が一気に冷え込む。
思えば、今日は寒かった。通年で使えるからと買った黒の礼服に貼り付けたカイロだけでは温まらなかった。何しろ心にポッカリと空いた穴が、身体を内から冷やした。急な別れが寂しかった。
死がこんなに身近に有ることを、初めて実感した。
「バイバーイ、バイバーイ、バイバーイ……」
耳の奥で少女の声がこだまのように繰り返している。
その声が友人に似ていることを、私は今さらながら思い出した。
テーマ; バイバイ
2/1/2025, 3:59:03 PM