「君と出逢って」
君と出逢って、数日が経った。
私はツキカゲ。
先日、”死にたい”と言ってここを訪れた人の子”美月”を拾った、この神社に住み着く妖だ。
美月は人の世が嫌になって逃げてきた類の人の子だ。
人の時間で言えば、私はここ数百年一人だった。
たまに森を歩いている人間を見かけたことはあったが、それも数十年前の話。
といっても、数千年を生きる私にとっての数十年というのは、ほんの一瞬と言ってもいいほどの短い時間だ。
だが、寂しいと思っていたのには変わりはない。
だから、美月が来て嬉しかった。
美月はよく寝る人の子だ。
ここに来た時は、目の下には濃いクマがあった。
疲れ切っている様子だった。
今にも壊れてしまいそうな様子だった。
助けてあげたかった。
硬い木の床で寝ていたから、膝枕をしてあげた。
とてもよく眠っていて、心地よさそうだった。
何かから開放されたような。
そして、目を覚ましてから、ここに来た理由を聞いて、この子を救ってあげようと決心した。
”あぁ、この子は人の世に馴染めない子だ”
”人の世にいたら壊れてしまう類の子だ”
そう、わかったから。
だから、うんと甘やかした。
あの子は、美月は、本音を話してくれた。
辛かったと。苦しかったと。
今まで我慢してきたものを全て私に吐き出すように。
泣きながら。そして、スッキリしたのか、眠った。
美月が起きてから、”人の世に戻ることはないから、一緒にここで暮らさないか”と持ちかけてみた。
そうしたら、喜んでいた。
喜んで、承諾してくれた。
それから、一緒に生活をした。
まだ、数日しか経っていないけど、美月は変わった。
少し笑顔が増えてきた。
年相応になったんだ。
良い変化だと思う。
これから、一緒に暮らしていくんだ。
だから、もっと人の子らしくしてほしい。
もっと、笑って欲しい。
我儘になって欲しい。
私は妖だから、人間のことは分からない。
だが、生きててよかったと思えるようにしてやりたいと思った。
久しぶりに人間と一緒にいて、私も楽しいから。
やっぱり、人間という生き物は面白い。
終
5/5/2024, 11:40:55 AM