特盛りごはん

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「やめるときもす……すこ……」
「すこやか?」
「すこやか!な、なる?ときも……」

 微笑ましさに緩む顔を悟られないように引き締めながら、昨日見たドラマの影響で一生懸命覚えてきたという辿々しい誓いの言葉を見守る。

「えーっと…………ちかいます、か?」

 暫く記憶の中を走り回ったが成果はなかったらしい。かなり省略されてしまったが恐らく一番大切な部分には辿り着いていたので、誓います、と事前の打ち合わせ通りの言葉を口にした。
 すると安心したように息を吐きながら自分より一回り程小さな手が差し出される。指示されていた通りにその小さな指にシロツメクサで編んだ指輪を通せば、目の前の少女は満足気ににんまりと笑った。

「おめでとうございまーす!」

 幼い花嫁はそう言ってスカートの裾を翻しながら飛び跳ねると、ポケットに入れていた白いうさぎのキーホルダーの横に付いた鈴を鳴らした。チリンチリンと軽やかな音が鳴る。セルフ祝福。斬新。

「ダンナさまもおめでとうございまーす」

 こちらへ向けて鈴を鳴らしながら楽しそうに笑う少女を本当の鐘の音が祝福する時、自分は彼女とその相手とを祝福する側にいるのだろうけれど。その時の君がどうか幸福でありますように。
 まだ遠い未来の少女の幸せを願いながら、隠れて作っておいた花冠をその小さな頭に乗せた。



/鐘の音

8/5/2023, 2:14:23 PM