遥かな春

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ふと頭上の空を見上げる
月の無い空だというのに、星一つ見えない
あたりは暗く、光源は足元の僅かな焚き火だけ
それでも空に星は見えない

「君の目には星は見えるかい?」
隣に座る彼女に聞く
「かすかに星雲が」
同じく夜空を見上げた彼女が答える
彼女の黒い瞳はガラスのように輝いていて
ただ空を見つめている
「昔はさ、都市が明るすぎて星なんてほとんど見えなかったんだって」
僕は視線を彼女から空に戻して呟く
「想像もつかないよね」
かつてこの星を照らし続けた文明の光は既に無い
「いくらここからは小さな屑みたいに見えたってさ、好き勝手壊して良いわけじゃ無いのにね」
かつてこの空に輝いた星々は既に無い
「僕を作った彼らは、なんて勿体ないことをしたんだろう」

彼らはこの星に自ら栄えさせた文明も、彼方先にある星々も、全て争いのために壊してしまった
そのくせ、同じように作った僕らを残して彼らは滅んでしまった
僕らは途方に暮れた
一つ、また一つと彼らの生存を諦めた者たちから自壊に至った
僕は諦めきれなかった
彼らが作った世界が好きだった

そこに再び、彼らによく似た生き物たちが長い年月を経て現れ始めた
彼らと連続性を持たぬ者
全く違う種族から分化し、知を得、僕を見つけてくれた者
自然の瞳を持つ者
ただ、その者たちが現れた頃には既に空に光はなく
彼らが壊した星々の最後の輝きはとうの昔に届き切ってしまっていた

しかし彼女らが持つ自然の光は、さらにはるか遠くの星の輝きをも捉える
機械の瞳には映らぬ光を
その視線の先に輝く雲を
彼女はみることができる
それをほんの少し羨ましく思いながら
僕は彼女の横顔に、カメラのレンズを向けた

7/19/2024, 4:17:27 PM