いろ

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【空が泣く】

 降りしきる雨を見て、まるで空が泣いているみたいだねと言った人がいた。乾ききった私の頬に白い指先で触れながら、慈しむように微笑んだ人。
「きっと君の代わりに、空が涙をこぼしてくれているんだよ」
 柔らかな声が耳元でよみがえった。あまりにも空想的で幼稚な発想だ。私の中からは悲しいという感情が、最初から欠落している。泣きたいと思うことすらないのだから、空どころかたとえこの世の誰であっても、私の代わりに泣く機会などありはしないのに。

 ぽつり、ぽつりと、晴れた空から雨が落ちてくる。ああ、君はまた空が私の代わりに泣いているなんて馬鹿げたことを言うのだろうか。血溜まりに沈んだ君の肢体を見下ろしながら、そんなことを考えた。君の胸を刺し貫いた自分の腕にこびりついた生温かさが、妙に気持ちが悪い。
 依頼があれば誰の命だって奪い去る。それが私の仕事だ。たとえ標的が君であっても躊躇なんて抱かない。そんな心は生まれた時から、私にはない。ああ、なのにどうして。
 雨粒が私の頬を打つ。湿ったその感触が、ぽっかりと空いた私の心の空洞をやけにキリキリと締めつけた。

9/16/2023, 11:02:10 PM