うに

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砕けた鏡の破片ひとつひとつに、小さな私が映っている。
そのうちの一つくらい、他所を向いたり、違う表情をしていたりするのではないかとじっくり見つめてみたが、鏡の中の私はどれもこれも面白みのない顔で見返してくるだけだ。
そういえば、鏡は悪いものを跳ね返してくれると聞いたことがある。
確か母方のばあちゃんが言っていたのだったか。
妊婦が葬式や法事に出席するときには、胎児を連れて行かれないように腹に鏡を潜ませるのだと教えてくれたのもこのばあちゃんだった気がする。
しかし考えてみれば、亡くなった親類縁者を、胎児を連れて行く悪霊扱いしているのだから酷い話だ。
神棚に鏡が祀られていたのも、同じ理由なのか。
疎い私には良くわからない。
しかし、こうして断面を晒している鏡は、魔除けのアイテムと言うよりは、寧ろ鏡の中になにかを閉じ込めてしまう、封印のアイテムのように見える。
いいものも悪いものも、触れたもの皆封じ込めてしまうような。
このまま見つめ合っていると、鏡の中の私と入れ替わってしまいそうだ。
とりあえずこのままにしておくわけにはいかないので、ちりとりと箒を持ち出して破片を片付ける。ガシャガシャと音を立てて、破片がちりとりに集められていく。
雑多に反射する光は相変わらず私を映し続けている。ビニール袋にまとめ、新聞紙で包み、さらにビニール袋に入れて、ワレモノ注意と書き添える。
これで終わりだ。最早私を映すこともない。




(お題:鏡)

8/19/2024, 3:34:09 AM