冷瑞葵

Open App

バイバイ

「じゃ、バイバイしよっか」
 時間を忘れる密会の末、君はそう言って僕に笑いかけた。その言い方にムッとしてしまって、僕は別れる間際に不機嫌になった。
「僕、いつまでも子供じゃないんだよ。子供扱いしないでよ」
「えー? ごめん、怒らないで。仕方ないじゃん、私からしたらずっと子供みたいなもんなんだから」
「僕、もう君より歳上なんだよ」
「え!? もうそんなに大きくなったの。すごいねぇ」
「だから――!」
 懲りずに子供扱いしてくる君は悲しげに笑う。君の姿は10年以上変わっていない。幼い頃何度も甘えて泣きついた記憶そのままである。
 小学2年の頃、君は突然この世からいなくなった。幼い僕に詳細は語られず、僕の中の君は日々おぼろげになっていく記憶に囚われている。
「……次はいつ会える?」
「んー、またいつか、夢の中で」
「いつまで会える?」
「さぁ、どうかな。君が大人になるまで?」
 明瞭な回答は得られない。この時間に終わりが来るのが恐ろしい、なんて言ったら、君はまた子供扱いしてくるだろうか。
「じゃあ、そろそろ起きる時間だよね。バイバイ」
「……うん、バイバイ」
 手を振ると同時に視界がぼやけていく。一度瞬きをして目を開いたときには無機質な天井が視界に入ってきた。
 君の姿はない。いつか、バイバイの言葉は永遠の別れを示してしまう。それを分かっていながら僕は大人に向かっていつもの日常を開始していく。

2/2/2025, 3:14:40 AM