書く習慣:本日のお題「初恋の日」
初恋の日。
日付は今でも覚えている。
今ほど夏が長くなかった時代である。
空は高く澄み渡り、涼やかな風が吹いていた。
出会い方としては「共通の知人を通して知り合った」のパターンに該当する。
弓道部の練習を終えた私は、袴の裾と髪をなびかせて校舎裏の通路を歩いていた。知り合いに呼び止められて振り返り、その場で数人固まって集まっていた内の一人に、目も心も奪われた。
『源氏物語』の主人公はたいへん美しく「光源氏」と呼ばれ、『Fate/Zero』の槍使いディルムッド・オディナは「輝く貌」と謳われる美男子だった。
私の目には、その人が光っているように見えた。
端整な顔というのはこんなにも目を惹くものなのか。自然と目が吸い寄せられて、そのままいつまでも見ていたい気持ちに抗えない。黒いウールの上に無造作に転がったダイヤモンドみたいだった。鬱蒼と木々が生い茂る山の中に突然現れた青い清流のようでもあった。語彙力が尽きてしまった。言葉を選ばず率直に申し上げると、周囲とは作画が違いすぎた。
私を呼び止めた知り合いは、袴姿の私を談笑の輪に呼んでくれた。彼を一秒でも長く見ていたくて、私はほぼ初見のメンバーで構成されたそのグループに混ざってみた。
彼が低く艶のある声で話し始めると、梢を渡る風さえも遠慮して静かになったような気がした。人の声を魅力的だと思ったのは、その時が初めてだった。彼の声で聴けるなら、大嫌いな数学の授業でも最後まで起きていられると思った。
彼の方も私に一目惚れだったと後に語っていた。互いに推し合うような関係から始まり、進学など諸々の事情によりご縁がなくなった。
もうとっくの昔に疎遠になった相手だが、今でもふと彼を思い出す。開門前から登校してお喋りしていた時の、朝の澄んだ空気。彼が好きだったフューシャピンクの鮮やかな色と、SEABREEZEクラッシュベリーの香り。私にとってはチルド保存レベルの大事な思い出だが、相手にとっては永久凍土に埋葬して忘れ去りたい黒歴史の可能性がある。
ただし、私は当時のときめきを時折取り出して矯めつ眇めつしたいだけで、現在の彼と再会したいわけではない。私が好きだった当時の彼だからこそ、永遠に輝いているのだ。
もしも本人がこの文章を見たらぞっとするだろう。
5/7/2026, 4:46:36 PM