『記憶の地図』
記憶とは通り過ぎた過去の思い出であり、
地図とは向かう目的地へと導く案内図である。
記憶とは曖昧で、地図とは正確でなければならない。
相容れない2つの関係は、まるで水と油のよう。
しかし、水と油がそうなるように、この2つが交わって、ふと思いがけないものを生み出す瞬間がある。
「えー!凄いじゃん!めっちゃ上手いじゃん」
それは、特売チラシの空白を埋めるため、何気なく描いた絵だった。
メジャーな品種の野菜に手足や顔をつけた簡素なデザインだったが、即席にしては悪くないと我ながら感心していた。
翌朝、これが思いのほかパートさんらの好評を受ける。
「こんなのすぐに描けちゃうなんて、センスあるよ」
「息子に写真見せたら、すごい喜んでたわ!」
「ウチの娘、これ見てピーマン食べれるようになったの!」
普段は仲の悪い彼女らが、やたら団結して私を褒めるので、おそらく今後チラシの空白埋めは私が担当になるのだろう。
それが分かっていても、やはり褒められるというものは、なかなか悪くないものだ。
その瞬間ふと私の脳裏をかすめたのは、学生時代に漫画家を目指していた記憶だった。
私の中で消えていた、あの頃から続く一本の道が浮かび上がる。
記憶の地図とは、所詮ひとつの道でしかない。
地図の終着点がどこなのか定かではないが、少なくとも、その道を進まなければ続きは描かれないだろう。
そんな未来が思い浮かび、私は息を呑んだ。
6/17/2025, 4:01:10 AM