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⚠️新潟県の市町村擬人化
実在の市町村及び全ての物と無関係です。
⚠️現実の施設・人物をモチーフに取り入れていますがインターネットの情報を多く含みます。また現実のいかなるものと無関係です。
⚠️個人の見解・キャラクターとしての側面が多くあります。苦手な方は飛ばしてください。

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__トミオカホワイト美術館。南魚沼(うち)の中心部から車で10分ほど、水田と山に囲まれたこの美術館には『白』に人生を捧げた画家の絵が飾られている。

トミオカホワイトとは、上越出身の画家・富岡惣一郎が開発した特殊な絵の具だ。黄変せず、亀裂も剥落もしない白の油絵具と、特注の長大なペインティングナイフで描かれる世界。それが富岡の世界。

俺は彼の絵が好きだ。白と黒だけで描かれる世界。彼だけの、『白の世界』。

彼のシンプルながら緻密な作風は、海外で「俳句のようだ」と評価されたこともある。
シンプルなのに圧巻される。けれども感じるのは静寂だけ。
____よく理解る。彼は……彼もまた、どうしようもなく雪国の人間なのだ。

雪を被った針葉樹の山
まっさらに覆われた水田
静かに川に浮かぶ雪の板
雲に覆われた真っ白な冬空…………

シンプルなのに、没入してしまいそうな程のリアリティ。無音。

俺達が雪を活かして長い時間をかけて農業や産業を発展させたのと同じように、彼もまた雪に魅せられ、雪を表現するのに生涯をかけた。
そして俺達は、自分の個性を、世界を手に入れた。

俺は、彼の絵が好きだ。白と黒だけで描かれる世界。俺達の、故郷。

「な〜んぎょ」
「……!十日町。」

後ろから彼女が小声で声をかけてきた。

「十日町も来てたんだ」
「もうすぐ冬になるからね〜、本格的に降り出す前に冬の気配を感じておこうと思って」
「なるほど」

声を潜めたまま二人でくすくす笑う。その発想はなかった。彼女らしい考え方だ。

「いいよね〜彼の絵。」
「あぁ。……君は、もっとカラフルなのが好きかと思ってたけど」
「十日町(うち)は現代アートがメインだからね。でも現代アートにもシンプルなものは多いし、カラフルなものだけが好きってわけではないよ〜。何より、彼の絵には世界が宿ってるからね。」
「……世界。」
「そー。命が宿ってる絵ってあるでしょ?彼の場合は世界が宿ってる。」

私はそう思う、と彼女は絵に目を向けた。俺ももう一度、絵に目を見る。

「……俺は、彼の絵から何の音も感じないんだ。他で感じてるかって言われると分からないけど、彼の絵は……すっと音が消えるような、そんな感覚になる。」

これが世界を宿した絵、ということなのだろうか。
降り積もった雪。
ただそこにある山。
静かに流れる川。
それはどれもよく知ったもので、だけど人の踏み入ることは無い領域で___絵の『世界』に引き込まれて、その景色を見ている。

「感じ方はその人次第だからね、私の感じ方を無理矢理理解する必要はないよ」
「いや、君のおかげで理解が深まった気がする」
「それは良かった。同じ感覚を共有できる仲間も、違う感覚を持った仲間もどちらも大切だから」
「そうだね」
「ふふふ、じゃあそんな仲間に今年の雪まつりのアイデアをお聞きしたいんだけど……?」
「もうあと数ヶ月か、今年も早いなぁ」
「ほんとそれ〜、ね!今年もいい祭りにするために協力してちょ!」
「そうだな……去年は__」

富岡は雪を主役に世界を描く。
彼女は雪を舞台に世界を作る。
俺は雪と共に生きている。

農業、産業、観光……もし雪が降らない土地だったなら全く違う姿になっていたもの。
除雪には苦労させられるけど、同時にかけがえのない恩恵もくれる『大切な仲間』__。

雪原(しろ)の先は、きっと春(いろ)に満ちている。

12/8/2025, 3:25:14 PM