お題:逃れられない呪縛
最近の気温の上下は本当に読めないと思う。
炬燵の出番もとうに終え、そろそろ衣替えしてもいいかなと思った矢先のこと。むに、とやわらかな感触が膝に触れた。
にゃおん、ごろごろ。
こちらを見上げる、黒目がちで愛らしい目は「さむいから、いいよね?」と訴えている。
待て。何が良いのだ。私はそろそろ風呂に入りたいと立ち上がるところだったのだ。
しかし小さな体のこれまた小さな前足の肉球は、そのぬくもりをもって愚かな人間の動きを完全に封じてしまった。
ああ、温かい。
ゴロゴロ音が大きくなり、心地よさに足が根を張る。
猫の重みと温かさ、そしてやわらかさ。こちらにすっかり体を預けているのだと実感してしまうと、目尻が下がり口角が上がるのも仕方のないことだろう。
逃れられるはずがない。振り払えるわけがないんだ。
もふもふを撫でるこの手で退かせばいいだろうなんて、そんな簡単な話じゃあない。
こうして、ああだこうだと言い訳を重ねながら、風呂の予定は三十分ほど遅れたのだった。
5/23/2023, 2:04:10 PM