鶴づれ

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神様が舞い降りてきて、こう言った


「君はよくやったよ、ソフィア」
 とある日、神様が舞い降りてきてこう言った。私みたいな下っ端天使を直接迎えに来てくださることは、前代未聞事態のはずなのに、手放しで喜べない。

「でも、私はまだ、あの子を…、メアリーを幸せにできていません」
 私の視線の先では、白いベッドに女の子が弱々しく横たわっている。私の役目は、この子、メアリーの人生の最後を幸せでいっぱいにして、天国へ連れて行くこと。
 それなのに。

「メアリーは友達と外で遊んだこともないんです。学校にだって行けていないし、十歳の誕生日だって家族とお祝いできていません」
 医者も生きて十歳までと告げ、家族も長く生きられないならとメアリーから離れていった。小さな頃からずっと病室にいるからお見舞いに来る友達もいないし、学校に足を踏み入れたことすらない。本当に、ずっと一人だった。
 神様はぎゅっと唇を結ぶ私の頭を、優しく撫でてくださった。

「でもね、ソフィア。君はメアリーの夢の中で、いつも一緒に遊んでくれていたじゃないか。私も見ていたよ。とても楽しそうだった。幸せだったんじゃないかな。君も、メアリーも」
 そうだった。誰もメアリーを気にかけないから、私が一緒にいたんだ。現実の世界で生者に姿を見せるほどの力は私にはないけれど、夢に入ることはできる。せめて夢の中では笑ってほしくて、いっぱいお喋りして、遊んだの。
 それだけだったけど、メアリーは幸せだって思ってくれたかな…?

 神様は穏やかに微笑まれた。
「メアリーの命はもうまもなく潰える。他でもない君が、上まで連れてきてあげなさい」
 私の頭から手を離し、神様は空へ上っていってしまった。

 私はするりとベッドの横まで降りる。病室には、相変わらずメアリーと私しかいない。だけど。
「メアリー。一人じゃないからね」
 静かに命を終えようとするメアリーを、ただじっと見つめる。
 神様の言葉と、夢で見せてくれた笑顔を信じながら。

7/27/2023, 2:12:27 PM