あのぉ、この空白は何でしょう?
ドラゴン討伐が、皆さんにしては長引いたと思ったら、日誌にちらほら空白が見られるのですが
これ、もしかしてサボってました?
「俺たちのパーティはそんな怠惰ではない
全ての期間、しっかり働いていた」
だったら日誌に書いていただかないと困るんですけど
下手をすれば達成報酬が減額されて、評価も落とされる可能性がありますよ?
「その点については謝罪しよう
申し訳なかった
ただ、こちらもどう書いたものかと迷って、後回しにしてしまっていたのだ
少し事情があってな」
ええと、何があったんですか?
「俺たちは以前より常々、思っていたことがある
ひとつの依頼をこなす際、緊急性の高くないものでも、毎日のように何らかの活動を行わなければならないというのは、過酷すぎないか、と」
はあ
「毎日、過酷な冒険者の仕事を休まず行えば、様々なリスクが発生する
成功率も下がるだろう
冒険者の失敗や負傷、死亡が増えれば、人々の平穏が脅かされることにも繋がる」
まあ、言わんとしていることはわかりますけど……
「そこで、最も効率のいい冒険者の活動の仕方は何か、と考えた
ここで言う効率とは、俺たちの仕事のしやすさだけではない
冒険者組合の仕事の進捗
さらに言えば、この国の平和を守るのに効率的な活動の仕方、という意味だ」
それは、そこまで考えていただくのはありがたいですけど
まさかサボるのが効率的とか言うつもりなんじゃ……
「いや、何度も言うが俺たちのパーティは怠惰ではない」
ではどのような活動を?
「数日に1度、丸一日全力で休息を取ることにしたのだ」
やっぱりサボってるじゃないですか!
その間も報酬は発生してるんですよ!?
「何を言う!
サボるとは仕事を放棄することだ
俺たちは休息し、英気を養い、次の活動に備えている
休息も仕事のうちなのだ
遊びほうけているのではない!」
でもその時間活動すれば早く終わるんじゃないんですか?
「それは机上の空論だよ
さっきも言っただろう
冒険者はあなたが思う以上に過酷なのだ
毎日毎日活動すれば、精神はすり減り、失敗や死のリスクは格段に上がる、ということは理解していただきたいな」
ま、まあ私は冒険者ではないですから、皆さんの過酷さは想像もできませんけど……
「急がば回れだ
成功率を高めるには、がむしゃらに働き詰めればいいというものではない
多少遅くとも、休んで確実に依頼を達成することが大事ではないか?」
う、そう言われると……反論できない
「冒険者組合のルールは根性論がまかり通っていた頃のままだ
今はそういう時代ではない
冒険者は消耗品ではないのだ
俺たちは、こういった状況を改善するために、休息が必要だと訴えたい」
あー……
はい、あの、わかりました
この件については、私もできる限りのことはしようと思います
ただ、こんなこと言うのはあれなんですけど、上の方たち、頭が固いので、考えてくれるかどうか
「その時は、俺たち自身も動くつもりだ
不満に思っている冒険者は多い
皆で声を上げれば、労働環境は改善されるはずだ」
なかなか大変だと思いますけど、大丈夫ですか?
リスクもあると思いますが
「なに
今回倒したドラゴンに比べれば、組合を説得するくらい、なんの負担にもならないさ」
冒険者の方たちって、本当にたくましいですね
「今回は大勢の仲間と一緒だからな
すでに協力を確約してくれた冒険者の数は、聞いたら驚く人数に達している」
それほどの人数なら、希望はあるかもしれませんね
私も一緒にがんばります
それと、もっと冒険者の皆さんに寄り添えるよう、勉強します
「ありがとう
ただ、無理はしないでくれ
俺たちも無理をする気はないからな」
はい!
……この後、冒険者の労働環境は大幅な改善を図られることとなった
そのきっかけを作った冒険者パーティは、さらに、組合職員の労働環境の改善にも介入
そして、冒険者を引退しデスクワークに移り、冒険者と組合職員、双方の気持ちがわかる職員として重宝されることとなる
9/13/2025, 11:28:19 AM