アルベルト幸薄

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「それでいい」

「お母さん。外に出ても良い?」
無理だとわかっていてもやはり外に出てみたい。
「駄目。何度言えばいいの?おとなになってから」
やはり駄目だった。
おとなになってからって結局いつなんだろう?
いつも曖昧に回答される。
どうやら外は危険だから大人のお母さんは自由にドアを開け閉めできる。
「じゃあ、お母さんお仕事にいかなきゃいけないから今日もお利口にお留守番しててね」
「うん、お母さん」
お母さんはドアノブに手をかけ私の知らないドアの先に消えていった。
物音一つしない部屋が余計に寂しさを感じさせる。
お母さんは時計の針が6を指すまで帰ってこない。
その間はテレビを勝手につけてはいけないし、お腹が空いたって冷蔵庫を勝手に開けてはいけなし、窓はシャッターが閉まっていて外を覗くことができない。
無論、ドアは開けてはいけないし、玄関に近づくことすらしてはいけない。
だからお母さんが帰ってくるまで本を読んでいるか、お人形と一緒に帰りをじっと待つ他ない。
「お人形さんは外に行ってみたいと思はない?」
当然、部屋は沈黙のままだ。
すると棚に置いてある人形が突然落ち、床に横たわっている。
「大丈夫?すぐに元の場所に戻してあげるからね」
「お人形さん?どこを見ているの?」
人形の目線の先にはドアがあった。
「やっぱりお人形さんも外の世界が気になるのね?」
そんな事を言いながらボーっとドアを見ていると、外の世界を見たいという好奇心が異様に刺激された。
「お人形さん。私、お母さんとの約束破っちゃう悪い子かも」
「ちょっとだけここで待っててね!」
人形は横たわったままだ。
「ちょっと覗くだけだからいいよね?」
自分にそう言い、罪悪感を紛らわそうとしている。
「少しだけ、少しだけだから」
そろそろと玄関へと足を運ぶ。
玄関に近づくにつれ鼓動が速くなる。
静かな部屋に心臓の音が響いていると思うほどに鼓動は速い。
とうとうドアは眼の前のところまで来た。
「お母さん。ごめんなさい。私悪い子だよね。お母さんとの約束破っちゃうんだもん。でも、悪い子になっても良い。気になって気になって仕方ないよ」
初めて鍵を解錠する。
そしてゆっくりと手をドアノブへかける。
「これを開けたら外…」
外への好奇心と期待を乗せてドアノブをひねる。
だが、自分が回す前に不意にドアノブが回った。
「あら?何をしているの?」
そこにはお母さんの姿があった。
「ねぇ?私との約束覚えてる?」
あまりの驚きと緊張に声が出ない。
「質問しているのよ?もう一度聞くわ。私との約束覚えてる?」
次はない。
そう言っているように聞こえる。
「はい…。外には…勝手に…出ちゃいけないです…」
「それでいいのよ」
人形は横たわったままこちらを向いていた。

4/5/2024, 9:27:28 AM