小説
迅嵐
「お前が何でもないフリしてるのは知ってる」
それは自販機でブラックコーヒーを買うボタンを押した瞬間に言われる。
「......」
おれは無言で答えた。そんな様子を見た彼はニコリと笑う。
「目的も、方法も、詳しいことは何も知らないが、それだけは知ってるんだ」
そう言うと彼は手にしていたペットボトルに口をつける。
「そっか」
太腿のトリガーケースに触れる。もうそこには風刃は無いけれど、後悔はしていなかった、
はずだった。
全てを知るおれと、何も知らない嵐山。
真逆なおれ達なのに、どうしてこうもお前は見抜いてしまうのか。
「...知っててくれてありがとな」
「...あぁ」
頬を濡らすものを、嵐山は知らないふりをしてくれた。
12/12/2024, 1:50:39 PM