風がゴオと吹いて、桜の花弁が舞い散った。向かい合うふたりの間ではしばしの緊張が続いていたが、
「いざ」
の言葉を合図にして戦いは始まった。鮮やかな身のこなしの中で、刀が交差するのが分かる。互角かと思われたが、決するときは一瞬であった。
「勝負あり、かな?」
相手の喉元に木刀を突きつけてから、芝居がかった口調で彼はそう言う。
「君には敵わないね、シロウくん」
握手を取り交わしながら賛辞を送る男は、不敵な笑みを浮かべていた。
「そんなこと言って、タケナミさんあなた手を抜いたでしょう」
口をとがらせるシロウをなだめるように、タケナミはおどけた声を出してみせた。
「なあんだ、バレてたのか。じゃあお詫びに一杯どうかな」
「ぜひに。日の高いうちから飲むお酒が美味しいのは、永遠に変わらない事実でしょうからね」
11/2/2024, 3:47:54 AM