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『モンシロチョウ』

「何してんの?」
 ベランダに作られた、小さな家庭菜園。
 そこにしゃがみ込んで何かをしている同居人の後ろ姿に向かって、サッシに手をかけ身を乗り出すように声をかけた。

「あー。大量殺戮?」
 こちらを振り返ることもなく淡々とした口調で発せられる場違いな言葉に、はぁ?と困惑の声を上げながら裸足のままベランダへと降りる。
 コンクリートの冷えた感触は、数歩の内に日向へ出て温いものに変わっていた。
 自分も隣へとしゃがみこんで、大量殺戮とやらを覗き込む。どうやら霧吹きを手に、その中身を葉に吹きかけているようだった。
 しゅっしゅっ、という霧吹きの音が響く。

「何が死んでんの?」
 ん、と指差された葉の先には水滴に覆われた小さな青虫が丸くなっていて、痙攣をおこしたように震え、もがいていた。
 よく見れば既に土の上には既に動かなくなった青虫が何匹も転がっていて、なるほど大量じゃん、と納得する。

「こいつら、蝶になるんだよ」
「ふーん」
 虫に興味はない。植物にも興味が無いから、この葉が何なのかも分からない。
「白くてね、かわいいんだ」
「ふーん」

 小さな青虫がぽとりと落ちて動かなくなるのを、じっと見ている同居人の横顔から、なぜか目が離せなかった。

5/11/2023, 5:26:20 AM