夏
田舎暮らしの私。
そんな私にとって、『夏』は小説や漫画の中そのものだっだ。
じめじめしているけれど、爽やかなひと時の幼い記憶
水田に反射する夕陽、すいすいと泳ぐ飴坊にめだか。ねだって買ってもらったラムネの瓶を片手に持って、もう片方は父の手を持って、短い歩幅で丘に登った。水に映っていた日が水の下に落ちるのを見届けて。
それからどのくらい経っただろうか、小さな口によってラムネ瓶の中が空になった頃、星空を見上げる。その日はお月様がいなかった。
お父さんはわたしにこう言った。
「あれがベガ、あれがデネブ、あれがアルタイル、」と
___わたしは思った。
きれい
学校ではお月様の話ばかり。先生たち友達もみーんな
授業では先生が、お月様は太陽の光を反射しているから綺麗なんだ、と。友達はお月様の方が明るくてきれいだ、と。
「〇〇!」お父さんがわたしの名前を呼ぶ。
___わたしは言った。
お月様がない方が、お星様がきれい
お父さんは空の写真を撮った。
あれから10年。
私は高校生になっていた。相変わらず星が好きだった
そして今年も丘を登る。新月の日に、長くなった歩幅で、星空を見るために。
水に映っていた日が、水の下に落ちるのを見届けて。
片方にラムネの瓶を持って、もう片方は9枚の写真を持って____。
今日で10枚だ。
2024/6/28
6/28/2024, 12:52:34 PM