「『刃なれ罵なれ』、暴力なり罵倒なり、みたいな漢字変換を思いついて、最初は妙案と思ったけど、さすがにバイオレンスは書けねぇのよ」
今回も相変わらず、高難度なお題よな。某所在住物書きは天井を見上げてため息ひとつ。
お題の平仮名を漢字に変換して変化球な物語を書くのは、物書きの得意技である。
離ればなれ、葉なれ場なれ、羽なれ馬なれ。
あらゆる変換を、今回も試行した。
なんだ「派慣れ場慣れ」って。
「去年は紅茶の茶っ葉のジャンピングで、葉っぱが水面とポットの底とで……って書いたけどさ」
これのコピペ、しちまっても良いかな。物書きは言った――それだけ「放れ場成れ」を、あるいは「花れ馬鳴れ」を思いつかなかったのだ。
――――――
本来の季節感と今着ている服が、はなればなれ。
脂身食べても胸焼けしなかった過去と少しの鶏皮で轟沈してる今が、はなればなれ。
嘆きと胃薬は多々ありますが、その辺に置いときまして。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。そこそこ深めの森の中、不思議な稲荷神社の、
敷地内の一軒家の中庭には、稲荷狐のお父さんが大切に育てている薬草畑、ハーブ庭がありました。
父狐が育てる薬草は、そのほとんどが不思議な薬草、妖狐のお茶、仙狐のハーブにアロマも少々。
都内の病院で漢方医をしているお父さん狐の手と尻尾にかかれば、それらはたちまち人間の、
風邪を治し、ぎっくり腰をやわらげ、悪夢は稲荷寿司フィーバーに早変わり。
心魂の傷や汚れだって、悪霊退散、清めます。
で、その不思議な不思議な稲荷の狐の畑には、
父狐が漢方医として人間と仕事をするにあたり、とっても重要なお花が植えてありまして。
それは名前を、「キツネノ ヨイザマシ アザミ」、狐の酔醒まし薊と言いました。
つまりどれだけお酒を浴びても、このアザミの花を煮出したお茶やシロップさえ摂取しておけば、
たちどころにアルコールを、「アルデヒド」をすっ飛ばして、一切肝臓・腎臓等々傷つけず、狐糖という未知な無害に再構成してくれる秘薬なのでした。
父狐、お酒、弱いのです。
ところでそのアザミ、5株ほど、ピンクのお花と茎が、はなればなれになっておって、
お花の方がどうやら行方不明。
誰かが摘んだようです。
「誰だろう?かかさんかな?」
父狐のお嫁さん、母狐は、酒豪な北国狐の血を引いているので、ぶっちゃけ何杯飲んでも平気です。
「かかさん、キツネノヨイザマシアザミの、はなればなれになった花の方を知らないかい?」
お友達がアザミを欲しがっていたなら、言ってくれれば、丁度シロップのストックがあったのに。
と、いう意味を含めて母狐に聞いてみたところ、
返ってきたのは「私じゃない」の回答。
「末っ子が5個ほど、花を摘んでいましたよ」
どうやら花と茎をはなればなれにしたのは、父狐のお嫁さん、母狐ではなく、
彼等の子供、まだ稲荷の神様から「名前」を頂いていない、末っ子子狐だった模様。
子供が「狐の酔醒まし」に、何の用事でしょう。
「アザミの花がキレイだったから、摘んで遊んで、頭飾りにでもしたのかな?」
酔醒ましのシロップはストックが十分あるけど、
アザミの花もまだまだいっぱい咲いているけど、
何度も何度も、なんども、キツネノヨイザマシアザミの花を摘んで摘んで、遊ばれては、父狐の肝臓がピンチになってしまいます。
なんなら人間の医療従事者と狐の漢方医との飲み会で、アザミのシロップ無しにお酒を飲んでベロンベロンして、酔って狐に戻ってしまったら、
そりゃあ、もう、大騒動です。
狐のお父さんが、SNSに上げられて、コンコン大炎上、あるいは大バズりしてしまいます。
そりゃ困る。こやん。
「あの子は、今どこに?」
「『外』に遊びに行っていますよ」
「そうか。それじゃあ、帰ってきたら『アザミで遊ばないで』と言っておかなければ」
旺盛な好奇心が自分に似たのは嬉しいけれど、
さすがに実害が出てしまっては、困るなぁ。
コンコン父狐、他に子狐がイタズラしたところが無いか、薬草畑を見回ります。
「あの子が大きくなったら、あの子も酔醒ましシロップのお世話になるのかなぁ」
どうだろうなぁ、意外とかかさんの血を継いで、酒豪かな。あーだこーだー、こやこや。
コンコン父狐、ぐるっと薬草畑を散歩して、子狐が帰って来るのを待っておったとさ。
11/17/2024, 3:46:00 AM