白玖

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[生きる意味]

「姉さん、おはよう。今朝ごはん用意するから待ってて」
挨拶をすませて朝一番に台所に向かう。
起きてきたら二人分の朝食を用意する、これが俺達姉弟の毎朝のルーティン。

「ご馳走様。今日は沢山食べてくれて良かった。片付けたら今日何しよっか」
「あ、そういえば1000ピースのジグソーパズル買ったっきり手つけてなかったんだけど一緒にやる? うん、じゃあ後で部屋から取ってくる、あ、今取ってくるから少し待ってて」

「はー……」
未開封のジグソーパズルを手に取ると、途端に溜息が漏れる。想像してたよりもずっと姉さんとの生活は俺の精神までも蝕んでいっているようだ。ある境を切っ掛けに姉さんは精神を病み失声症となった。医師の話では一時的なものらしいが、もう一年近く姉さんの声を聞けていない。前はうるさいくらい元気だったのに、今じゃ声と一緒にあの笑顔すら消えてしまった。
元気になって欲しいと、昔の姉さんに戻ってほしいと心の底から願ってる。だって今も昔も、俺の生きる希望は姉さんだけだから。
けれどそう考える反面、今の姉さんとの生活が俺自身そろそろ限界に達しているのも気付いてる。

昔、こんな言葉をどこかで見た。
『幸福は笑顔を維持できるかどうか』だと。
『家族の笑顔はその指標になる』とも。

なれば、愛する人の笑顔に触れられない今の生活は到底幸福とは呼べないものになるのかもしれない。でもだからといってこの地獄に姉さんだけを置いてけぼりになんて、出来るはずがない。どれだけこの生活が苦痛に満ちようとも限界に達して壊れかけても、俺から逃げ出すことは決してない。

人はこれを生き甲斐と呼ぶのだろうが、これはそんなお綺麗な感情なんかじゃない。
ここにあるのは『死ねない理由』でしかない。
姉さんのいる暗闇から姉さんを救い出す、ただその義務感で俺は貴女に笑いかける。いつか貴女が元の明るく優しい、俺の大好きだった姉さんに戻れるように。

「お待たせ、姉さん」

4/27/2023, 1:54:31 PM