楽園ってあると思う?
じっと長い睫毛の下で俺を見上げている。少々重くなっている様子のそれと、滑舌の甘くなった柔らかい声。就寝前の与太話をご所望らしい。ならば付き合おうと思ってはみたものの、さてどう返そうか。
楽園、楽園。彼女も俺も熱心な信者ではない。楽園など存在しないと言っても叱られはしないだろう。実際、死後の楽園などという不確かなもののために欲求を我慢するというのは俺には耐え難いし、彼女もそれは重々承知のはずだ。ならば、真面目な返答を期待しているわけでもあるまい。
触り心地の良い髪を指先で弄びながら脳内で結論を出し、無言のまま二人で寝転んでいるベッドを指差した。数秒の後に理解した彼女は満足気に、俺の腕の中へ潜り込んで眠りについた。
傍にいるのならば俺が楽園を作ってあげよう。わざわざ言葉にするほど無粋な男ではないが、たまには示してやってもいいだろう。
『楽園』
4/30/2023, 3:34:41 PM