ゴォゴォと獣のような唸り声を上げながら、風は私や彼女に襲いかかる。凍てつくような風に、指先から血が滲み、周りの草木さえ寒さに震えている。
「寒い、寒い、寒いっ!」
彼女は両手で二の腕を擦りながら叫ぶ。
「嫌なら帰れば?」
「なんでそんなこと言うのー!」
「あんたが勝手に着いてきただけでしょ」
「ううう······」
さむいよぉー、と泣き言を言いながらも、寮には戻りたくないのか、彼女は私の後ろに着いてくる。かつて整備されて山道は道筋があるだけ登りやすい。
「着いたわよ」
ランタンを掲げた私の目先には墜落し、原型をほとんど留めていない戦闘機が転がっていた。1人乗り用のそれは普段、私が乗っているのと大きさは変わらない。顔を上げた彼女の瞳は心なしキラキラと輝いている。
山の中腹。墜落した戦闘機が一台転がるその場所は二月前に起きた東西戦争の名残だ。壊れた戦闘機を修理する金も遺棄する金もない貧乏国家である我が国ではそのままだ。ここから半壊した街がよく見える。死んでしまった街はきっと、永遠にこのままで、忘れ去られていくのだろう。
戦闘機をまじまじと見つめる彼女に内心複雑な気持ちだ。こんな残骸、彼女には見慣れているだろうに。
私は彼女が戦闘機に夢中になっているうちに用意していたキャンプ用の小さな焜炉で水筒の水を沸かし、コーンスープを作る。もちろん、お湯を淹れただけでできるインスタントだ。
「なんでそんなに準備が良いの?」
「夜営には必須スキルよ」
「そうじゃないよぉ~」
彼女の言葉をはぐらかし、私はコーンスープが入った紙コップを渡す。寒さには耐えきれなかったのか、彼女はちびちびとスープに口を付ける。頬を蒸気させ、ご機嫌な彼女に問いかける。
「勝てると思う?」
戦闘員とは思えぬ弱気な発言。上司が聞いていれば懲罰ものだろう。そんな私の弱さを吹き飛ばすように、大丈夫だよ、と彼女は笑う。飲み終えた紙コップを握り潰した彼女は月を背にして立ち上がった。
「だから、私がいるんだもの」
そのために生まれてきたのだと語るように、口元を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた彼女はこの世を操る神様のように光輝いて見えた。
11/19/2025, 12:01:19 PM