薄墨

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天使は確かに、人智を超えて美しいが、人を堕落させるために現れる悪魔もまた、息を呑むほど美しい。

それが、たとえ、私たち人間の歴史や文化を脅かす侵略者だったとしても。

フクロウ頭、が、現れ、私たちを保護すべき野生動物とみなし、扱い始めてから、数週間経つ。
猛禽類らしい、卓越したムキムキの手足を持ち、鋭い爪を備え、羽毛に覆われたフクロウ頭の人類が、辺りを闊歩し始めた時、私たちは、世界中で争いの真っ最中だった。

その当時、私は、カメラを首にかけて灰色の大地を駆け回っていた。

私は、悪魔の美しさに魅了されていた。
私は、人間が作り出した悪魔に変わり果てさせられたボコボコの灰色の大地や、静まり返って色も生気もなくなった景色に横たわる鉄条網や、悪魔に取り憑かれたものたちに破壊尽くされて原型をとどめていない廃墟のコンクリートから飛び出した鉄骨や、どこまでも灰色に感じる地獄で見る空に、なぜだかある種の魅力を感じていた。

それは、戦時に生まれた私の、子供の頃の夢だった。
この世界に溢れている、残酷で悲惨だという、でも美しいこの風景の一瞬を、カメラに捉えたい、という、子供じみた単純な、なんの思想も考えもない夢だった。

そうして、子供の頃の夢を叶えたところに、あのフクロウ頭が現れたのだった。
彼らもある種また、別の種類の悪魔だった。

フクロウ頭は、私たち「下等な野生動物」たちの、「愚劣な同種争い」をやめさせることから始めた。
家畜に、実験動物に、躾けるよう、彼らは力尽くで、私たちに争いなどするまい、という「先進的な教訓」を染み込ませた。

フクロウ頭たちは、次に画一化を求めた。
「人間は人間らしく」
彼らにとって、人間は皆等しく人間であり、多様性や思想などないただの「人間という種類の動物の群れ」だった。
彼らは悪魔だった。

そんな時に、私はどうしたか。
私は、まだカメラを握っていた。
それはただ戦場というものを奪われた未練、とか、ニンゲンの歴史を保存しようという、無謀で高尚な考え、とかではない。

私は、魅了されていたのだ。
新たな悪魔の、美しさに。
フクロウ頭の、残酷で、非道で、理屈に合わない醜い美しさに。

子供の頃の夢だった。
私はただ、ただ、自分の美しいと思ったものを、ただ一瞬を、この不格好なカメラという箱に、閉じ込めたかっただけなのだ。

私はまだ、悪魔に魅了され続けている。
私はまだ、子供なのだ。
ただただ、子供の頃の夢の中で、延々と遊び続けているだけなのだ。

天使は確かに、人智を超えて美しい。
しかし、人を堕落させるために現れる悪魔もまた、息を呑むほど美しいのだ。

6/23/2025, 10:46:45 PM