たやは

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秘密の箱

友達の家は古くから続く酒屋で、庭の奥に蔵を持っていた。子供の頃は、青々とした芝生の庭を幼馴染3人で走り回っていた。遊びがエスカレートしてくると庭の灯籠を倒したり、キャッチボールのボールが母屋のガラスを直撃なんてこともあり、友達の親父さんによく怒らていた。

そんな時の親父さんの決め台詞が「蔵に入れるぞ」だ。子供にとっては蔵は薄暗く恐怖の対象だった。

あの日も親父さんに怒られた時、いつもなら「蔵に入れるぞ」にビビっている友達が、その日は反抗的に「いいよ。蔵に入れろよ」と言った。親父さんは反省の見えない態度にさらに怒り本当に僕たちを蔵に入れ、鍵をかけてしまった。

「どうして蔵に入るなんて言ったのさ」

「蔵を探検しようぜ」

「探検?」

「そう。この蔵に秘密の箱があるらしい」

「秘密の箱?秘密ってなんのことだよ」

「いや。知らない。でも父さんが絶対に開けるなって言ってた。開けるなって言われたら気になるだろ」

母屋から持ってきたのか、懐中電灯を僕たちに渡しながら友達は秘密の箱の話しを始めた。その箱は、15cmくらいの大きさの茶色の箱で蔵の2階にあるらしい。箱の中は何か入っているかは分からないが、ずっと昔から蔵の中にあるらしい。

蔵の2階に上がるとそこは真っ暗でジメジメしていた。懐中電灯の光を当てれば、そこには、いろいろな物がたくさんあり、この中から探すのは時間がかかりそうだった。なのに、友達は嬉しそうに笑っていた。

「よし!探すぞ」

「本当に秘密の箱なんてあるのかよ。秘密の箱って何が入ってんの。」

「ある。中身は箱を開ければ分かるよ。」

2階で長いこと茶色の箱を探すと3つの箱が出てきた。どれも15cmくらいのサイズで秘密の箱といわれるものと同じ大きだった。

「どれが秘密の箱か分からないから、全部開けてみよう。ちょうど3つあるし、せーのでいっべんに開けようぜ」

「本当に開けるのかよ。いいのかよ。」

「ビビってんの?帰ってもいいよ。」

「分かったよ。開けよう」

「せーの」

僕たちは箱を一斉に開けた。

「何だ空じゃん。そっちは?」

「こっちも空。それは?」

僕の開けた箱には、紙切れと手鏡が入っいた。紙切れには、『鏡を見れば全てが分かる』と書かれていた。僕の前に立つ友達が手鏡を持ち鏡を覗いた。

「お前たち!何をしていいる!」

蔵の入口から親父さん怒鳴り声が聞こえてきたため、友達は慌てて手鏡を箱に戻し、紙切れを入れて蓋をした。

「この箱に触ってないだろえな。」

「ないよ。」
「ないです。」

でも、僕は見た。友達が手鏡を覗こうとした時、友達は親父さんの声に驚いて鏡を見ていなかったけど、鏡の中から骨だけの指が友達の顔に延びていたのを見た。
僕は聞いた。鏡から「やっと出られる」としわがれた声がしていたのを聞いた。

すぐに箱に戻されて蓋をしたためそれ以上は出て来なかった。あの紙切れはお札なのかもしれない。

そのあと、手鏡の話しは誰もしていない。話しても誰も信じてくれないだろう。
僕たけの秘密の話し。
秘密の箱の話しだ。

10/24/2025, 6:45:09 PM