いつものように朝を迎えて、出勤の為、アパートの部屋の扉を急いで開けた俺の目の前に、それはそれは美しい妖精が現れた。
そんなことが現実に起き得るわけがない。もしかして未だ夢の中にいるのかと、頬を抓ってみたが……痛い。
突然の出来事に、何が起こったか把握するまで五分ほど。阿呆のように妖精を見つめていると、妖精が口を開いた。
「いつもお仕事にお疲れのあなた。そんながんばっているあなたに、ご褒美として私の国へ連れていってあげましょう」
次の瞬間、辺りが光に包まれ、気付けば見たこともない場所にいた。そこは色とりどりの花が咲き乱れ、この世の物とは思えない美しさだった。
先程の妖精に導かれ、俺は美しい宮殿へとやって来た。
宮殿では、食べたこともない変わった、けれども、頬が落ちそうになるくらい美味しい食事を食べさせて貰い、美しい妖精達の見事なダンスまで見せてもらった。
ふと腕時計を見てみれば、あれから二時間以上も経っている。
「そろそろ帰らなければ。今日も仕事があるんです」
妖精達は寂しそうな顔をして「もう少しだけ待ってください」と私に告げ、どこかへと行ってしまった。
そのまま待つこと十分ほど。
「これは私達からのプレゼントです。どうぞ受け取ってください」
浦島太郎であれば、この箱を開くと老人になってしまう。開けてしまって良いものか。五分ほど悩んでいたが、意を決してその箱を開いた。すると、この世界に来た時と同じように眩い光に包まれ、気付けば自分の部屋に戻ってきていた。
急いで仕事に向かわなければ!
家を飛び出し駅へと向かっていると、なんだか周りの視線が痛い。駅のトイレへ駆け込み鏡を見ると、なんと、私は王子様のようなタキシードを身に纏っていたのだった。
もしかしてプレゼントというのは家に帰してくれることではなく、このタキシードのことだったのかこれが……そんなことを考えながら、慌てて家にとんぼ帰りをし、スーツに着替え、また駅に向かうのに三十分。
ようやく、会社へと向かう電車に乗り込むことが出来たのだった……。
――とかいう出来事が、この三時間近い遅刻の言い訳にならねーかなー。なるわけねーよなー。現実逃避の単なる妄想だしなー。マジでこんな風に誰かご褒美くんねーかなー。
知ってる知ってる。現実は甘くない。
『現実逃避』
2/27/2024, 10:49:06 PM