導(しるべ)

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ペットショップで鳥籠に入れられた鳥たちを見ると、昔の自分と重ねてしまう。
病弱で、満足に走り回ることもできなかった幼少期。
空を自由に飛び回る小鳥たちに羨望のまなざしを向けていた。
ただひたすらに、憧れていたんだと思う。
そして、劣情を密かに持っていたのかもしれない。
劣情というか、コンプレックスというか、そういうものを。
幼少期、そして学生時代にも、世間一般的に言われる『青春』とはかけ離れた生活を送っていたから。
僕にとっての青春というものは、もしかして病院なんじゃないかと思わせるほどに。

「久遠くん?」
はっと、意識を引き戻された。
今は講義中で、隣には極度の人見知りの同居人が座っている。
「大丈夫?なんか考え事…してたみたいだけど……」
僕にしか聞こえない声で問われる。
「大丈夫。ありがとう」
僕が言うと、彼はすっかり気の抜けて安心しきって頬が緩んでいて。
「良かったぁ…珍しくノートもとってないしと思って……体調悪いのかなとか思ってたけど…」
思いに浸りすぎて、ノートをとるのを忘れていたのは失敗だった。
後で見せてもらおう、と思って、今度はしっかりとペンを持つ。
窓から、小さく鳥のさえずりが聞こえた。

十数年前の僕へ。
今、僕はすっかり元気になって友達と日々楽しく過ごしています。
あのとき、頑張ってくれてありがとう。
今の僕はもう病院という名の鳥籠に囚われていません。
ありがとう。
そして、これからを楽しみにしていてください。

7/25/2024, 10:19:12 AM