こっこ

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麦わら帽子


小学校3年生の夏。家族3人で海水浴へ父の愛車で出掛けた。
久し振りの家族旅行で私は、とてもはしゃいでいた。
海の家で食べる焼きとうもろこしもラーメンも格別だった。泳ぎの得意な父の背中に捕まって、浮き輪を持ちながら波乗りも楽しんだ。
海の家で借りたパラソルで母だけは、ずっと海を見つめていた。
夜は花火も楽しかった。最後の線香花火で誰が最後まで残るか勝負した。殆ど私の勝ちだった。
母の手元が小刻みに揺れて、目には涙がうっすらと浮かんだのを不思議な気持ちで見ていた。
夜は疲れて私は一番に寝入った。夜中トイレに行きたくなって目が覚めた時、父と母が話し合う声を聞いてしまった。
「これで、家族で出掛ける日も最後だな。荷物はもうまとめたのか?」
「はい。」
「麻帆のことは、心配するな、俺の両親もついてる。家に戻ってから、お前の口から麻帆に話しなさい。」
「わかりました。」
私は、ショックと気まずさでトイレを朝まで我慢した。
味のしない朝食を食べた。母に選んで貰ったお気に入りの麦わら帽子を被って、父の車に乗り込んだ。
私は車に酔いやすいので、クーラーもかけつつ窓は全開だった。
海岸沿いを走ってカーブを曲がったその時、強い風が吹いて私の麦わら帽子が飛んでいってしまった。
私は、感情を抑えられずに声をあげてわんわん泣いた。
「又買ってあげるから。」
と母は優しくなだめてくれた。
その夏、麦わら帽子と一緒に、大好きだった母もいなくなってしまった。
遠く遠く手の届かない場所まで…。
大人になった今でも、麦わら帽子をみると胸がちょっと苦しくなって…優しかった母を思い出す。
潮の香りとともに。

8/11/2024, 10:40:28 PM