にゃほ子

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人は、向かい合わせで座ると緊張してしまうと…

何かで読んだ。

だから、初対面の人には横に座り話すといいと。

左側に座れば、心臓のドキドキが恋愛と錯覚すると

…聞いた気する。

そして、私の向かい側には何故か…苦手な上司が

座っている。

終業後、私はいつも寄るコーヒーショップがある。

それが1日の楽しみ。束の間の休息。

美味しいコーヒーに甘いお菓子…至福の時間だ。

だけど、今日はちっとも癒されない。

目の前に上司がいるからだ。

私は彼が苦手だ。

いつも仏頂面で、端的に手短な指示だけ。

にこりとした姿を1度も見た事がない…

だけど、簡単なアドバイスはいつも的を得ている。

ミスがない完璧な上司なのだ。

そんな彼にはファンもいる。

確かに、綺麗な顔立ちをしているのは認める。

彼女達は、愛想がないのも良いらしい。

昔から異性が苦手な私にはよく分からない。

そうして、何故か向かい合わせのまま

2時間近く経とうとしている。

さすがに気まずくなり、私から話し掛けてみる。

「……っ、あのっ!」

「なんでここに居るんですか?」

私から話しかけられ、びっくりした顔をする。

初めて表情が崩れたのを見た。

少し考え…困った表情をしながら

「……君が好きだから、ここに来た。」

今度は私がびっくりする。

えっ!?…えーーーーっ!!

そんな私の心情を察したのか

上司は「ハハッ」と声を出して笑う。

そして、私をじっと見つめると

「すまない。今更だよな。」

「こんな事なら、もう少し早く伝えたら良かった」

少し悲しそうな表情なる。

「そんな事ないですよ。ありがとうございます。」

「誤解が解けて…良かったです…最期に。」

私が笑顔で答えると

「それなら良かった。ありがとう。」

ふんわり優しい笑顔を浮かべ

上司は、スーッと光に包まれ消えていった。

そう。

今日は、先日事故で亡くなった上司の

告別式帰り。

車に轢かれそうになった子供を助けて

巻き込まれたのだそうだ。

私は、昔から視えてしまうタイプ。

嫌な思いもたくさんしたけど

今日は、この性質で良かったと初めて思った。

お互いもう少し早く話したかったですね。

少し感傷的になりながら、お店を後にした。

8/25/2023, 2:12:46 PM