シシー

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 下校するタイミングで雨が降ってきた。
強風で木々が激しく揺れて、地面には排水溝に収まりきらない雨水が広がっている。部活で外にいた生徒が慌てて校舎や部室棟に駆け込んでいる。
 まあ夏ならではの夕立ち、ゲリラ豪雨ってやつだ。暗い色をした雲の反対側は青空が覗いているからそう長くは続かないだろう。
いきなりの気圧変化に頭が割れそうなくらい痛むけど、どうにも雨の日は嫌いになれない。なんだか自分の汚い部分も嫌なことも全部洗い流してくれるような気がしてさっぱりする。

「じゃ、帰るね。バイバイ」

「え!?こんな雨降ってるんだから止むまで待ってようよ」

「明日英語の小テストあるじゃん?風邪ひいて休めば受けなくてすむから今帰るの」

「何をバカなこといってんの。勉強しろよー」

「無理!英語だけは何しても覚えられん」

 カバンに大きな袋を被せて自転車の前かごに突っ込む。引き止める友だちに手を振って駐輪場から飛び出した。
後ろから「おバカだなー」と笑い声が聞こえたけど無視した。私はあんたらと違って頭良くないの。

 雨粒が叩きつけてきて痛い。目にも口にも入ってきて前も見にくいし、風のせいで進むのもつらい。
でもあんなに暑かったのが嘘みたいに消えていく。涼しいわけではないけど、暑いよりはマシだ。
 家につく頃には全身びしょ濡れで、唯一出迎えてくれた愛犬がバスタオルを咥えてパタパタと尻尾を振った。
雨が降るたびにびしょ濡れで帰ってくる私と母のやり取りを覚えたのか何も言わなくてもタオルを持って玄関で待っていてくれるのだ。「ありがとう」といって身体を拭きながら靴に新聞紙を詰め込んで干す。その後風呂を洗って沸かしてすぐに入った。私にしては珍しく長風呂をしたと思う。

 もう明日は風邪をひけば完璧である。そのために髪も乾かさず冷房の温度も少し下げておいた。寝るにははやいからスマホをポチポチ弄って愛犬と遊んで、いつの間にか寝落ちてた。

 翌朝、見事に身体は怠く熱を測ったらバッチリ38.2℃であった。遅くに帰ってきた母には「またか」と呆れられたが完璧すぎる計画に親指を立てる。
友だちからも『おバカ』とメッセージが送られてきた。
 そう、これは英語の小テストがあると告知されたときから計画されていた。この結果は最初から決まっていたことなのだ。
愛犬にドヤ顔してみせたら尻尾で叩かれた。「おバカ」とでも言っているようである。
 これでいいんだ。これが青春なんだよ。


           【題:最初から決まっていた】

8/8/2023, 9:05:16 AM