たったひとつの希望
「お前、
私のサポーターになってくれないか?」
そう言ってマキは、
階段の上から逆光で、振り返った俺を
見下ろした。
ご丁寧に、腰に手を当てている。
「は、」
俺は流行りのネットミームのネコの顔に
なった。表情は、?、
意味は、何言ってんだお前、だ。
「サポーターだ。私はマキ、勉強はできる。
が、勉強以外のことが全くできない。
1限目が終わったら、
次の教科は何を持ってどこに行けば
よいのか、課題はなんだったのか、
どこを当てられるのか、
さっぱりわからない。
別に手を引いてもらわなくていよい、
言葉とか地図を示してくれたらよい、
LINEを使えばというものも、
Googleカレンダーを使えばというものも
いるが、私はそもそもケータイを
持っていない」
マキは喋り続けた。
…こいつよく大学まで進学できたな。
「あ、家でのことは家族というサポーターがいるので大丈夫だ。お前には構内で、
英語のサポートをしてもらいたい」
一呼吸おいて俺は聞いた。
「それって、俺にメリットは?」
「特にない」
「ない…」
「しいていえば、私が夢を叶えるのを
特等席で見れる、ことだ」
「夢?」
「私の夢は、将来自分で自分だけの
AIサポーターを作ることだ。
今でもある程度できるものはあるが、
私はこんなだからバイトもできないから、
お金がない。自分で作るしかない。
それが私の、たった一つの希望だ。
そして、もう一つの夢は、女の子の友達を
作ることだ」
「は、」ネットミームネコ、再び。
マキは少し恥ずかしそうにいった。
「私は昔からとことん女の子に嫌われてな。やれサポーターと称して男子をはべらしているだの、話し方が痛いだの言われて、
女の子の友達が一人もいないんだ。
サポーターは男子ばかりだ」
ちょっと胸にきた。
「お前、名前は?」
「コテツ」
「コテツ、か。よろしく、コテツ」
「ところでマキ、人のことをお前って
言わないほうがいいぞ」
「そうなのか?ありがとう、教えてくれて」
階段から降りてきたマキは笑顔で
俺と握手した。
俺のちょっと変わったキャンパスライフが
始まった。
3/2/2024, 11:31:48 PM