「モンシロチョウ」
人は死んだら蝶になる。
そう私に言ったあの男の葬式は、つい、先月のことだった。
その男とは腐れ縁とも言おうか。私は自分でも自覚があるのだが、どうにも友人と言うには恥ずかしいのである。
その恥ずかしいという感情が、嬉しいという感情だと分かっているはずなのに。難儀な生き物だと思う。
__話がそれてしまったので戻そう。年寄りになると無駄に話が長くなる。
そんなあの男とは随分と、自分たちが思っているよりも長い付き合いになっていたと思う。
最初は、確か、私が30かそこらで、あの男は20になったばかりの頃か。同じ研究員のチームとしてデスクが隣りだったことから始まった。
私とは違って明るい奴だった。若さゆえかな。違うか。
当然、人間なので会話の一つや二つを交わす。そしたら何とも反りの合わない人間であることがお互いに判明した。
そして、まぁ、つまりとても仲の悪い奴らとして同じ研究チームの同僚からは揶揄われることとなった。今では笑い話か、一緒に笑っていたハズだった男は先月死んでしまったが。
しかしお互いに思考は似通っていたのか。食の好みは意外に合うし、仕事のやり方などはお互い目を見張るものがあった。
結局、月日を重ねるうちに、反りは合わないが一緒にいて不快にはならない、という不思議な関係に落ち着いたのである。
そんな腐れ縁の男が死んでしまった私は、1人寂しく墓の前でせっせこ花を変えてやっているのである。地獄のアイツも報われることだろう。天国かもしれないが。まぁ地獄でも良いだろ。タフだし。
「生まれ変わったら蝶になるとかなんとか、くっさいこと言っていたけど、結局、人は死んだら骨だけだよ」
まだ梅雨入り前だというのに少し湿っぽい風が肌にまとわりつく。空はからりと晴れた晴天であるのに。
強い日差しを浴びた花は、首をもたげて項垂れる。
あれでは蝶も寄り付かないだろう。ちらりと横目に見てそう思う。私も随分、詩的な人間かもしれない。
ふと視線を戻すと目の前に白いものがある。
モンシロチョウであった。
それはヒラリと身を翻すと、私の鼻に止まってまた空へと飛んでいく。
化けて出るには早いというのに。
ふ、と笑いを漏らす。
あぁ 歳はとりたくない。涙腺がバカになってきかないからだ。
5/10/2026, 12:22:00 PM