深夜スーパーの人魚姫(解凍待ち)
新年一発目の出勤日。
休憩時間。同僚から今年の抱負は? と聞かれた。
「寝坊しないことです」と答えた。
「げっ」
すっからかんの惣菜売り場。弁当さえない。
潔くあきらめてこういう時の救世主・鍋焼きうどん。
明太子も欲しい。卵はうちにあったな。
ついでに大してめでたくもないが半額シールのおはぎ。
あと明日のためにメロンパン。そうそう。牛乳もいる。
照明に照らされて不気味な光を放つエナジードリンク。
目についたラベルの発泡酒をつかんだ。
無人レジのおしゃべり。
「あれ」
あくびをかみ殺して目を擦る。アイシャドウのラメ。指の背が、鱗のように銀にきらめく。
すぐさまティッシュで拭おうとして、やめておいた。
捨てどきの分からないくたびれたエコバッグを手にさげる。
ずしりと重い。
ここが海ならちっとも上手く泳げている気がしない。
物語未満の人生。
年始から残業三昧だ。劇的とは程遠い。
陽気な店内ソングを置き去りに、帰途につく。
外は恐ろしく寒かった。
これじゃ海なんかじゃない。冷凍庫だ。
冷凍庫の奥底で静かに果てる魚の干物に思いを馳せた。
「化石はいやだなぁ」
朝になったらニュース番組で流れるのだ。
××県◯◯市で氷漬けの遺体が発見されましたって? 嫌過ぎる。
ならば内側から身体を温めればよいと家に着くまでのあいだ、おはぎをつまみに、発泡酒を二本あけた。
いい気分だったのでひとしきり電柱とダンスする。
王子様が迎えに来る気配は一向にない。
なんなら酔っ払って公園のベンチで凍死する確率のが高そうだ。
翌朝。幸いニュース番組に取り上げられることはなかったが、猛烈な二日酔いで新年早々寝坊した。
自分でもどうかしてると思う。
1/4/2025, 2:27:05 PM