Mey

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13歳の男の子が星になった。
短すぎる生涯に、ご両親の瞳からは涙が止めどなく溢れ落ちた。

小児科医の貴弘さんと貴弘さんのクリニックに勤務する看護師の私は、ご家族から連絡をいただいて男の子の自宅へ赴き、最期をご家族と見守って…
命の灯が消えたとき、貴弘先生は静かに優しく彼の臨終を告げた。

貴弘さんの声は震えなかった。
鼻ひとつ啜らなかった。
星になった男の子や家族を労い、家族と男の子のお別れの時間を過ごさせてあげるため、そっと部屋を後にした。
いつも頼り甲斐のある広い背中は、微かに震えている。
初めて見る哀しくて辛そうな背中だった。

抱きしめてあげたいのを堪えるしか、そのときの私にできることはなくて。
家族の前では優しくも冷静な医師であろうとするのをただ見守ることしかできない。
クリニックに帰ったら、悲しみを共有しようね。
恋人の私にできる唯一のこと。

男の子の自宅を出て涙が溢れないように視線を上方に向ける。
冬の夜空に星々が瞬いて、哀しみを遠くから慰めてくれるかのように美しい。


クリニックに到着して、医療器具やタブレットなどが入った荷物を診察室に置いた。
私は白衣を脱いだ貴弘さんに近づき、背中から抱きしめた。

「歩(あゆみ)…?」
「泣くのを我慢しないで。私しか居ないから。だからちゃんと泣いてね」
私の手に貴弘さんの手が重ねられ、強く握られる。
「歩は強いね。こんなときが訪れた時には、僕が慰めるつもりでいたのに」
「外科病棟で看取りの経験がたくさんあるから…」
「…そうか。辛いことをたくさん乗り越えて今の歩があるんだね」
貴弘さんはグスッと鼻を啜った。
私は抱きしめる腕に力を込める。


子どもが亡くなるのは本当に辛くて。
ご両親の痛みがダイレクトに伝わってやるせない気持ちにさせる。
成人や高齢者の看取りも辛かったけれど、子どもの死はその比ではなくて。

病気による寿命で最善を尽くしても救えない命があるけれど、医師としてはやっぱり患者さんを救いたかったり、苦しさを極力取り除いてあげたかったと思うから。
看護師よりもずっとその権限があるのが医師だから。
まして、患児にどこまでも寄り添ってきた貴弘先生だから。


どうしようもないことだとわかっていても、
とても悲しくて辛いよね。
泣いてもどうにもならないってわかっているけれど、
でも、今、泣いておかないと苦しさをずっと引き摺ってしまうの。

「貴弘さん」
「…うん」
「私、貴弘さんがもう良いよって言うまで、貴方の背中を放さないからね」
「…うん…」


涙が私の手を濡らしてゆく。
過去、辛い夜を一緒に乗り越えさせてくれた人を、今度は私が抱きしめる。
私の悼みも哀しみも、貴弘さんと共にあるよ。
悲しみに震える貴弘さんが愛しいよ。



泣きながら願う。
わずか13歳で星になった男の子へ。

--ご両親が星になるその瞬間(とき)まで、ずっと見守っていてください--




君の背中 & 星に願って

2/10/2025, 12:18:40 PM