sol

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「あたし、あんたとはもうやっていけない」
「…勝手にすれば」
何年か前に、すごく些細なことで、大好きな音楽を辞めた。
高校2年、軽音部。
多感な年頃だったから、と言いたいところだけど
単にあたしが子供なだけだった。
それからは、弾かないし、聴かない。
意地を張ってたんだと思う。

今さらになってすごく後悔してる
意地がいつの間にか罪悪感になって
未だにギターを触れてない。
心にぽっかりと穴が空いて
しばらくはなんにも楽しくなかった

時間が経ってある程度恋愛して
社会人になって
穴は、まだ塞がらずにそこにいる。

「お母さんさぁ、音楽とかちっとも分からないけどさ」
母が箸を置いた。
「辞めた理由も教えてくれないし、辛そうだったからずっと言わないようにしてたけど」
「…うん」
「音楽やってた頃のあなたが、1番素敵だったと思うんだよね」
「…だね」
ハハッと乾いた笑いが出た

私もわかってるんだ
音楽を辞めてから、人生がちっとも楽しくない。
音がなきゃ世界が輝かない。
「っ…いった…Fコードってこんな難しかったけ」
痛くて堪らない、嬉しくて堪らない。
初心者みたいなこと言って、馬鹿みたい
すっごく楽しい。

「……もしもし、?久しぶり…元気だよ、あのさ」

失った時間はもう、戻らない。
だからってその時間が無駄かって言ったら
違う。あたしは失って初めて気付けたんだ
でももう、気持ちを、夢を、音楽を
あたしは見失わない。

「聴いてください、!私の、私達の、!」

音楽を。



【失われた時間】


あとがき

私は正直、楽譜を全く読めないほどの音楽音痴なのですが
楽器を弾ける人、歌える人って凄くかっこいいなって思うんです。
音楽に限らずですが夢に、自分に、素直な人って凄く素敵だなとも思うんです。
あなたにも【失われた時間】ありますか?
それは必ずしも悪いことじゃないかも知れません
もし自分を責めている人がいるなら、見失わないで。






5/13/2024, 12:18:22 PM