《友情》
それは、本部外での用事が出来た為に帝都郊外の喫茶店で遅めの昼食を取っていた時の事だった。
後ろに座っていた男性客二人の会話が耳に入った。
「俺は!友達と出掛けるって!聞いてたんだ!」
「うんうん。」
「それなのに、あいつ!俺の知らない男と!手ぇ繋いで歩いてやがったんだ!」
「そりゃまずいわ。」
「手ぇ繋ぐとか!友達とはしねぇだろぉ!」
「だよなぁ。女同士ならともかくなぁ。」
…あらかじめ断っておくが、声が大きかったから聞こえてしまっただけで、断じて耳を欹てていたわけではない。
どうも片方の男性の恋人に浮気の疑いが上がったらしい。
他の男性と手を繋いでいた…か。確かにそれは辛いものがある。
そして相談をしていた男性は、遂には大泣きを始めてしまい、もう一人の男性に店を連れ出されていた。
「うああああぁぁぁぁ…俺はっ、俺は!!」
「はいはい、ちょっと早いけど今から飲みに行こうぜ。何なら奢るからさ。」
「あああぁぁ!持つべきものは親友だ!ありがとうなぁぁ!」
そうこうする間に二人の男性客は退店し、店内は元の静けさを取り戻していた。
しかし、込み入った内容を気軽に話していた事と言い、それをある程度受け流している風な素振りを見せつつも憂さが晴れるまで付き合おうという姿勢と言い、良い友人関係なのだろうな、とコーヒーを口にしつつ感心していた。
……ん? 手を繋ぐ?
ここでふと、僕は最近の自分の行動に思い当たる。
気が付けば自分から、彼女の手を取り歩く事が多い。
何故だ?
他の男性と手を繋ぐ、それが辛い?
…何故だ?
僕は真っ白になった頭でコーヒーカップから口を離し、今の僕の心のようにカップの中で揺らぐ黒をぼんやりと見つめていた。
7/25/2024, 1:29:12 AM