もしもボクが後悔していることを無くすことができるのなら、ボクはきっとこの世界で多分もう生きてない。
悔やんでることがある。後悔してる事がある。残念なことにたくさんあるんだ。
一つ、ボクだけが助かろうとしたこと。
どうしてもどうしても死にたくなくて、どうしてもどうしても暴力を受けたくなくて、痛くても笑って誤魔化して1人だけ権力者になったこと。
もしあの場に戻って暴力に耐え抜いてたら多分死んでた。命なんて儚いから。
二つ、仲間を自我のない人形にしたこと。
権力者になって、暴力支配から洗脳支配に切り替わった時、ボクが担当することになったのはかつて住んでた場所で。ボクが久しぶりに顔を見せたことを喜ぶ仲間の良心につけ込んで、一人ずつ洗脳していったこと。気づいてしまった子がボクをまるで化け物を見るような目で見てたのが目に焼き付いて離れない。
もしあの場に戻れたら、ボクはきっと洗脳なんてできないなどと偉い人に言って殺されてた。立場が弱い権力者の命は、あんまり住人と変わらない重さを持ってる。
三つ、演奏者くんに恋しちゃったこと。
好きになっちゃったのが一番の悪。
権力者だから敵対する者に好意を持っちゃいけないし、そうじゃなくたって身分違いだから恋なんてしちゃダメ。ダメの合わせ技なのだ。
もしあの頃に戻れたら⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
もど、れたら⋯⋯⋯⋯??
戻れたら、どうするの。
ボクは、好意を消せない。じゃあ、偉い人のとこに戻るの?
違う、違う。
ボクは、ボクは、絶対ありっこないから死ぬなんて言えてるだけ。実際戻ったとこでどうせ、ボクは。
「やぁ、権力者」
「⋯⋯!」
演奏者くんがニコニコしながらボクの座ってるベンチの前に立っていた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯大丈夫かい? ずっと僕に気づかないようだったから」
「⋯⋯⋯⋯ずっと⋯⋯?」
「ああ、ずっと」
ということはバカみたいな絵空事を考えていたのとがバレているのかもしれない。
「後悔ってね、しない方がいい。過去には戻れないから」
「⋯⋯⋯⋯えん、そうしゃ⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯ふふ。独り言」
彼はそう言ってボクの手を取った。
「⋯⋯なに」
「ピアノ、弾くからおいで。好きだろう?」
そういうことをさらっとするから好きの気持ちが消せないのだ。
「⋯⋯うん、分かった」
消せないなら、向き合うしかないから。
せめて、今の二人での交流を楽しむしかない。
ボクはそう思いながら立ち上がった。
5/15/2024, 5:04:47 PM