くい、とセーターの袖を引っ張る……それが私と奴の秘密の合図。
奴は軽く屈んで顔を近づけてくる。あとは私が背伸びをして頑張るだけだ。身長差がありすぎるのも問題だな。
音を立てずに触れるだけのキスをすると、奴はにやにやと笑った。
「今日は積極的だね?」
「うるさい、ボケ。何でいつも私からするみたいになってんのさ」
離れてポケットから煙草とライターを出す。
「煙草、好きだね君は。まだ未成年だと思うんだが」
「アンタそういうとこだぞ」
「人が嫌いなのを知ってて吸うのは性格がよろしくない」
「人のこと言えないでしょうが」
静かな言い合いの後、煙草を燻らし緩く息を吐く。学校だけど屋上だからバレやしないだろう、そう思っている。
そもそも、何がどうしてこうなった──?
私は元々こんな男は好きじゃない。好きじゃないのに付き合ってる。
自信満々な態度も、この国では眩しすぎるフラクスンブロンドの髪も、太陽でキラキラ光る宝石のような金眼も、艶やかな唇も。
一目見ると惹き寄せられてしまうのは何故?
「君が少しでも好いてくれていて嬉しいよ」
意地悪そうに微笑む奴が嫌いだ。なのに……
「ねぇ、こっちを向いて」
セーターの袖を引っ張られる。最初にそうしたのはどちらからだっただろうか?
「やだよ、ばーか」
秘密の合図はされる方もちょっと恥ずかしい。
【セーター】
11/24/2023, 11:08:16 AM