・奇跡をもう一度
この世に、幾つの数字が存在するんだろう。
0から9までの、たった十つの文字と、コンマ、スラッシュ、πなんかの記号の組み合わせで、無限大の可能性を生む。
さて。
その中から選び取った、たった一つの数字が、テスト解答と一致する確率は、どれほどか。たった一度だけ、ヤケクソで埋めた答案に丸がつけられていたことがある。
あの時の感動は忘れられない。あの奇跡を、もう一度。ほぼ白紙の答案を睨みながら、僕は心の中で唸っていた。
テスト時間終了まで、残り二分。事件が起こったのはその時だった。
ハラリ。
隣の席の女子生徒が、解答用紙を床に落としたのだ。何気なく目をやってしまい、僕は反射的に目を逸らした。どっくん、どっくん。心臓がうるさい。先生が慌ててそれを拾いにやってくるけど、もう遅い。ばっちり見てしまった。
残り一分。どうしよう、どうしよう…
震えながら、シャーペンを握り直し、急いで解答用紙に滑らせる。
書き終えた途端、チャイムがなった。
結局、書いたのは女子生徒の解答とは全く別のものだ。
ほんの少しの後悔は、熱い高揚の前に氷解してしまった。
「ねえ。大問1の(2)って、××であってる?」
例の女子生徒だ。こっそり耳をすます。
「え、〇〇でしょ」
マジでー⁉︎と、彼女が悲鳴をあげる。
ああ、そうか。奇跡など、あてにするものじゃない。次はもう少しマトモに勉強しようか、なんて、実現性可能性が極めて低い思考が頭をよぎった。
10/2/2023, 2:41:57 PM