ほろ

Open App

「こんちはー」
学校裏にあるゴミ捨て場。普通なら誰も近寄らないような場所へ、今日も奴はやってきた。
「また来たのかお前」
「へへ、なんかやってないかと思って」
「今日はやってねーよ」
この前、焼きいもを作っていたのが見つかって以来、なるべく学校では変なことをやらないようにしている。そうしないと、バレた時にこいつが大変だから。
だけど、こいつには俺の親切が伝わっていないのか、やたらと俺に絡んでくる。
「えー、残念。用務員さんが次何するのか楽しみにしてるのに」
「人を問題児みたいに言うな」
「金髪にピアスしてる人を、問題児扱いしないならどういう扱いをすれば……」
「そもそも、お前は子どもで俺は大人。環境がちげぇよ。大人が金髪ピアスは変じゃないだろ」
それはそうですがぁ、と奴は足下の石を蹴飛ばす。
コン、とそのうちのひとつが俺の足に当たった。
「つーかお前、友達とかいねぇの。俺んとこばっか来てさ」
タバコを出して火をつける。奴はパッと顔を上げて顔をしかめた後、力なく笑った。

「いたら来てないよ」

タバコの煙が奴の顔を隠した。
冗談で言ったつもりなのに、まさかそう返されるとは思っていなかった。いつもヘラヘラしていて、言葉通り明るい奴なのに。どうしてか今の笑い方は、影が落ちていた。明るい奴の、光の裏側を見せられたようだった。
「そっか」
上手い言葉が見つからず、咄嗟にその三文字が出る。
奴は未だにその辺の石を蹴っている。怒ったりも泣いたりもしない。慣れています、という態度に、腹が立って言葉を探す。
「……明日」
「え?」
「明日、花火やるか」
自分でも何を言っているか分からなかった。ただ、楽しそうに笑う奴の顔が見れそうなのが、それしか思いつかなかった。
「火はあるし、どうせお前明日も来るんだろ」
「は?」
奴は困惑していた。石を蹴るのをやめて、口を開けて俺を見ていた。数分くらいそうしていたと思う。奴は急に腹を抱えて笑い出した。
「やっぱ問題児じゃん!」
学校で花火なんて、と笑う奴の顔に、影は落ちていない。うるせーよ、と奴の頭を小突く。
花火買わねえと。奴の笑い声が響く中、俺は高く昇るタバコの煙を目で追っていた。

1/24/2024, 11:17:56 AM