安達 リョウ

Open App

これまでずっと(場違い厳禁)


高校に入ってから二年半、大人しく地味な子で通してきた。
別にうだつが上がらないわけではなく、いじめの標的になるわけでもなく、かと言って成績優秀でもなく、全てにおいて平均でケチをつける対象にはならなかったようだった。
出る杭は打たれる、凹んでる杭も気になる、でも真っ平らでしっかり嵌っている杭は何とも思わない。
大人しくて地味でも、いい意味でわたしは周りに馴染んでいた。

はずだった。

そう。こんな教室前の廊下ど真ん中で、顔面偏差値上位数パーセントに入るような男子から、堂々と告白を受けるような女子でないのは決して記憶違いではない。

お願いしますと交際を求められ頭を下げられて、わたしは内心冷や汗が止まらなかった。

どうしよう、こんな大勢の目の前で。
断っても承諾しても、何かしら波風が立つ。
友達からお願いします、と無難に終わらせる?
でもそれって周りからは遠回しにOKって取られるんじゃ………

「何してんのあんた」
「えっ」

―――明らかに不機嫌な声と共に。
彼の背後から伸びた手が、若干荒目にがしりとその頭部を掴んだのはその刹那。
「こんなとこで何してんのって聞いてんの」
「え、あの、それは」
「………行くよ!」
半ば強引に引き摺られるように、彼は突如現れたその女子に連れ去られようとしている。
暫く呆然とその姿を見送っていたが、わたしは寸でで我に返ると迷う前に彼女の方に向かって声を張った。

「あの、わたし彼とは何でもないので! 本当に、たった今カノジョがいるって知ってびっくりして」
「迷惑かけてゴメンね! ちゃんと後で言い聞かせておくから心配しないで」
怒るでも無視するでもなく、彼女はわたしに謝りウィンクなどしてみせる。
??? 心配、って?

「いてーな、放せよねーちゃん!」
え。
ね………、?

―――弟が公衆の面前で告白大会をしている、と。
誰かが姉である彼女に耳打ちをしたところ、激昂して引き取りにきてくれたらしい。
………有り難いと思う反面、ほんの少しだけ彼が気の毒になる。

そうしている間に見えなくなっていった後ろ姿に、わたしを含め周りの野次馬も皆呆気に取られたまま

その騒ぎはようやく収束を迎えた。


END.

7/13/2024, 9:59:00 AM