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 私は今まで何で生きてきたんだろう。目的も目標も夢も、何もやることもしたいこともないくせに、日々を怠惰に過ごしている。昔は多分、こうではなかった……ような気がする。
 目を瞑れば、昔の情景が瞼の裏に流れ出す。

「あなたは特別な存在よ」

そう笑う、母がいた。

「お前は特別な存在だ」

そう笑う、父がいた。

「もっちろん、君は特別な存在さ」

そう笑う、友がいた。

「私はきっと、みんなにとって特別な存在だ」

そう笑う、私がいた。
 でもそれは、突如としてなくなった。母も、父も、友も、とあることにより亡くなった。私は、幸運で生きただけだった―――いや、幸運だったのだろうか。周りがいなくなって当然、私を特別な存在だと言ってくれる人はいなくなった。私はいつの日か、私を特別な存在だなんて思わなくなった。特別は周りがいるから生まれるものだ。周りがいなければ、生まれない。それを、痛感した。
 生きていることを、素晴らしいことだという。生命は重たいもので、自殺などはいけないものだという。でも、……でも。果たして今の私の生命は、重たいものだろうか。生きる意志なんてなくて、意味を見つけられなくて。

「……」

正直に言えば、今すぐにでも母たちと同じ場所へ行きたかった。飛び出したかった、投げ打ちたかった。―――飛び出そうとも、してる。けど結局、飛び出したことはない。
 わかっている、情けない行為であることは。みんながみんな、あんな災いを受けても負けずに生きている。なのにも関わらず、ずっとずっと私だけ負け続けている。ただ社会の荷物になっている。飛び出すも飛び出さないも、一番情けないのは何もできず進歩していない人だ。私はそれに当てはまる。

「……」

 ベランダの柵に、手をおいて下を覗いた。私がいるのはマンションの4階。ここから飛び出せば、母たちのところへ行ける。

「―――特別な存在だ、私は。私は、特別な……存在」

飛び出せる、わけない。どれだけあの人たちが私のことを特別な存在だと言ってくれたかわからない。そのぐらいには、私は愛されていた。あなたのおかげで、生きる元気を貰えるって。今の私にそんな力はないけど、沢山の人に褒められた生きる元気を、その称号に関するものを、私は捨てたくない。
 過去、私が助けた後輩が言っていた。当時、自分にとって特別な存在をすべて失ったと。自殺する手を引き戻してくれた私から、沢山の人と同じく生きる元気を貰えたと。後輩は同じく、とあることにより亡くなってしまった。でも、遺したものがあった。最初、遺書だと思われたそれは―――私への、ラブレター。私を特別な存在だと語ってくれていたものだった。そこの最後の文には、こう書いてあった。

「あなたという特別な存在ができたおかげで、自分は目的も目標も夢もできました。あなたのおかげで、笑顔になれます」

特別な存在ができれば、私の失くしたものを取り戻せる。笑顔になれる、と。
 特別な存在であった私に、特別な存在を見つけられるだろうか。

3/23/2026, 10:52:43 AM