『紅の記憶』
あの人のルージュを勝手に使った。
14歳になった春のことだった。
あの人が思っていたよりも早く帰ってきたものだから、
私はそれを隠すことができなかった。
紅くなった私の唇を見てあの人は、
少し目を見開いて驚いてから、
嬉しそうに微笑んだ。
いつか娘がメイクに興味を持って、
自分のメイク道具を勝手に使っちゃって……
なんてのをずっと夢に見てたの。
あの人は知らない。
私がどんな気持ちで貴方のルージュをつけたのかを。
私がどんな気持ちで貴方が普段使っているルージュに、
自分の唇をつけたのかを。
知らないんでしょう。そうでしょう。
私を娘のように扱うあの男は、
私の気持ちなんてこれっぽっちも分かっちゃいない。
11/22/2025, 10:29:20 PM