桜沼 花陽

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私はどこに行ってもダメだった。
中学時代まで、いじめに遭うかぼっちだった。
高校生になって、ホールのバイトをすれば毎回注文を取り違えて自分から辞めるように社員さんから促され辞めて、コンビニのバイトに受かったと思えば仕事を捌ききれずに辞めて、風俗でも働いたことがあったが、そこでも所謂コミュ障を発動して稼げずに辞めた。高校は中退した。幸い高校では友達が一人出来た。
大人になってからは無職期間が続いた。
こんな自分は何かおかしい。そう思い病院に行くと、発達障害と診断された。

私がその人と出会ったのは、母の知人から譲ってもらったチケットで気晴らしに見に行った、その人の個展でだった。1人で出かけるのが怖いというと、母が付き添ってくれた。
服装はお気に入りのワンピース一着で。私は服の管理も苦手だった為、何着かのワンピースを着回していた。

個展に着くと、素晴らしい粘土作品に添えられた素敵な絵を見た。全部同一の作者が作った。粘土は幼少の頃から凄かったらしい。その人は、小説も書いていた。今回の個展は、その小説を自ら粘土作品と絵にしたものらしい。多才な人だ。名前を鈴木 裕一と言った。

「本当に来てくれたんだ!嬉しいよ」

男が声をかけてきた。私にじゃない、母にだ。

「鈴木さん、来ましたよ!」

その人、裕一さんに、私はその場で惚れた。作品に引き込まれたのもあったし、色白で、服装はある程度身なりを整えているだけで全身で五千円しなさそうだった。そんな所が、彼の気張らない内面を表しているようで安心感があった。それになんと言っても顔が好み。
私は、顔だけは人から褒められてきて自信があったので、思い切って自分の連絡先を教えた。
「これ、良かったら連絡してください。今度ご飯でも一緒にどうですか?」
「あぁ、いいですね。楽しそうだ」
そう言って裕一さんは受け取ってくれた。

次の日の朝、携帯に裕一さんから食事の誘いが来ていた。返信をして、約束を取り付けた。一人で遠出するのは怖いので、待ち合わせは私の家の近所のカフェにして貰った。遅刻したが、許してくれた。
そうして逢瀬を重ねて、ある日怒鳴られた。

「君はどうして、そう、こう、非常識なんだ!ダメ人間だ!」

言いつつ、いつも私のフォローをしてくれる裕一さんに、私は惹かれていった。

心の羅針盤

8/8/2025, 7:12:13 AM