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たそがれ

 裸足で歩くアスファルトは、思った以上に不快だった。石のゴツゴツとした感じが足に刺さって痛いし、実際小さな石はいくつも足裏に刺さったのでその度に払って取り除かなければならなかったし、何より西日に灼かれてとても熱い。まるで鉄板の上を歩いているみたいだ。
 それでも裸足で歩き続けるのには理由があった。単純な話、靴がないからだ。靴がないのは裸足で困っていた女の子にあげてしまったからで、彼女の靴は脆い作りだったのかヒールが折れて使い物にならなくなっていた。どうやらこれから恋人とデートだったようで、けれど近くには靴屋がなく、困り果てて泣きそうになっていたので差し出したのだった。
 いいんですか、と何度も聞かれた。わたしはそれに何度も頷き返した。母からのお下がりで、実はサイズが合わなくて捨てようかと思っていたんです。前者は本当だったが後者は嘘だった。そうでもしないと、目の前の女の子は靴を受け取ってくれる様子がなかった。幸い、靴は彼女の足のサイズにぴったりだった。
 そしてこれもまた幸いなことに、誰もわたしの足には気付かなかった。一人二人くらいはぎょっとする人がいるかもしれないと思ったが、誰もが皆自分や家族や恋人や友人のことに夢中で、通行人Aのことなど視界の端に留めようともしなかった。おかげでわたしは、何かしら声をかけられることも無く帰路を辿れている。

 信号が赤になり、わたしは立ち止まる。暮れかける日が街をオレンジに染め上げ、わたしさえもその中に取り込もうとする。
 ふと足元に目をやると、オレンジはきちんと足を侵食していた。まるで夕日の色の靴みたい。元々履いていた靴とは似ても似つかないし、今日着ている服にも合わないけれど、悪くは無いと思う。

10/1/2022, 12:11:19 PM