『太陽の下で』
夜の街で夜の蝶としてずっと働いてきた。親が逃げて残した借金を返すまではどんな客にも愛想を良くして媚びを売ってずっと耐え続けてきた。女の盛りのすべてを費やしてきた日々もようやく今日で終わる。
ただの商売相手のひとりだったひとには借金を返すまではここから離れられないと伝えていた。いつまでだって待つよという言葉を最初は素直に受け取れなかったけれど、あれから今日まで本当に待ってくれていたそのひとの元へ私は白昼堂々会いに行ける。
夜の蝶としての服装や化粧は慣れたものだったけれど、そうではない普通の格好で、化粧もろくにしないままの顔で会うことをなぜかとても恥ずかしく思いながら呼び鈴を鳴らす。少ない荷物を手に扉の前に立っていた私を彼はまじまじと見つめていた。
「……なにか言ってよ」
「明るいところで見るの初めてだったから、つい」
「明るいと、シワとかシミとか、結構わかるでしょ」
「わかるけど、それもきれいだって思ってた」
決して褒め言葉ではないそれに、私はなぜか涙が溢れてしまった。ぐしゃぐしゃでべそべそになった泣き顔までをもきれいと言った彼を私は力のこもらない手で少しだけ殴った。
11/26/2024, 3:23:47 AM