冬山210

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『遠くの街へ』

遠くの街へ出掛けるの。
お気に入りのワンピースを着て。

貴方にもらった指輪をはめて、
貴方にもらった香水をつけて、
何処か遠いところへ行くのよ。

貴方と通ったカフェも、
貴方と座ったベンチも、
貴方と歩いた道もない。
貴方の居ない街へ行くの。

きっと私はそこで、
見たこともないような景色を見て、
食べたこともないようなご飯を食べて、
聞いたこともないような体験を沢山するのだわ。

それはさぞかし楽しいことでしょうね。

けれど私は、
見たこともないような景色を見たとき、
食べたこともないようなご飯を食べたとき、
隣に居るはずの貴方を思い出してしまうのよ。

「貴方なら何て言うかしら」
「貴方にも見せてあげたいわ」
「貴方はこっちの方が好きそうね」

そんなことを思いながら知らない街を歩くの。
まるで恋する乙女のようにね。

2/28/2023, 5:18:54 PM